自閉症 渡の宝箱

自閉症の渡が、日々起こす騒動や療育についてとシリコンバレーでの起業、生活を綴っています。

泣けるマッチョ達

さて、引き続き渡の大学の話。

大学の総合体育のクラスに入った私。このクラスは先日書いた通り、マッチョ達が集まり、黙々と筋肉が鍛えられるクラスです。雰囲気は暗い。よく周りを見ていると、どうも辛いのは私だけではなく、マッチョ達も相当しんどいらしい。

運動部に所属した事のある人は解ると思いますが、あまりにしんどいトレーニングが続くと誰も無駄口を聞かなくなります。

なので、このクラスも誰も無駄口を聞かず、辛くて自分の順番がわからなくなると目で

「つぎお前の番だぜ」

みたいな合図が送られます。

本日もこのクラスが早朝からありました。

クラスに到着すると20分走ってからGymへ。

ジム…。

このクラスに入る前は、私にとっては、フィットネスジムは疲れるところで、すごく大変な場所でしたが、このクラスに入ってからは、ジムが楽に感じる。だって、機械って座われるんだもん。座って、取っ手を持ち上げる。なんていいんでしょう!このクラスに出席してから感覚が一変する私。

今日は楽だわーとちょっと笑顔で張り切るわけです。

そんなジムでも、自分が病気になる前にやっていたジムよりハードなんだけど。

喜んでジムをやっていても、終わりというのはやってくる。

一通りのマシンを使い終えたら水を飲み、今度は壁に集合。

なぜに壁に??と思ったのですが、壁から上をふと見上げるとそこには、壁から高鉄棒がニョキってでています。4人くらいがぶら下がれる高鉄棒。嫌な感じ。

このクラスが楽で終わるはずはない訳だし…。

教授の説明がなされます。

男子はこの高鉄棒に、ジャンプしてぶら下がって1分間懸垂。あごのところまで鉄棒を持ってきて、下がる。再度あごの下に鉄棒をもってきて下がる。この繰りかえしだ。この懸垂は期末テストの課題としても行われるので、練習するように。

女子は、中央のフィットネスの機械についている低い方の鉄棒で行う。そこに踏み台を置くので、踏み台から登って、上下する懸垂ではなく、一度首の所まで鉄棒を持って来たら、そこで静止。その静止状態を1分保つ。これが期末テストに含まれる。女子も練習するように。12月までにはできるようになるから。

いやー、先生、18歳,19歳は12月までにできるだろうけど、私ができるっていうのは、ちょっと???だよ。

踏み台を置いてくれても、チビの私の身長だと鉄棒に飛び移る感じになります。

私もまずは静止できるか?の問題がありますが、渡はもっと問題。他の男子は全員身長180cm超え。でかいのです。渡は165cmしかありません。さらに、彼は特別支援級にいたので、高鉄棒などはやったこともないでしょう。

高校体育もチームプレイで難しくなると、ひたすら走る事で先生から点数をもらっておりました。大学に来るということは、そういう免除はない訳で。しょううがないので、渡にこっそり、

渡、女性の方に入りなよ。私がやったあとに、最後にやらしてもらえばいいよ。だって渡は身長がアメリカの女性より小さいし。あんた高鉄棒なんてみたことないし。

と耳打ちしてみた。余り理解してないみたいだったけど、私が女性のほうに来いというので、私について来た。

さて女性チーム。18歳のマッチョ女性が懸垂を始めました。20秒ほどできました。次の女性は数秒で落ちました。そうだ!そうだった!カリフォルニアの小学校、中学校には多くの学校で、高鉄棒とのぼり棒がない為に、登り棒を登る事と懸垂は苦手な人が結構いることを思い出した。男性は軍隊のクラスなどをとるとやるけど、女性は結構苦手な人がいる。

この種目だけは、今日は私が最下位で落ちこぼれるっていうことはないな、と確信。

なので、男性のほうをみる余裕ができた。

遠くの壁にいる男性達はすごいマッチョ達なので、ぶらさがる順番が来た4人は、「足にバネ入てます!」みたいな勢いで、高鉄棒の棒にジャンプして飛び移ってました。さらに手にはタコのような吸盤があるのでは?と思うくらい、しっかりと棒をにぎりしめて、

ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…

とすごい速度で懸垂が始まりました。すごー。肩もマッチョだし。腕をみても

「それ大木ですか?腕ですか?」

と聞きたくなるくらい、太い腕です。

怖すぎる。余りの怖さに目が釘付けに。すると、

ゆみ、次!

と呼ばれて、順番が来ました。私の静止時間は10秒。たぶん、もっといけた。けど、これ以上すると出勤した時に、手が震えてキーボードが打てなくなるので、ここでやめることにして棒からおりました。

あっ、次は渡だ。と私の後ろに並んでいた渡をみると、消えている。こつ然といなくなっている!えっーーーー脱走???不安になる私。

ふと男性の方を見ると懸垂は1人しかやっていなくて、その人は鉄棒に掴まっているものの、手がぶらーんとのびている。ブラさがっています。

えっ?なにこれ?と思ってよく見ると、その後ろ姿は渡だ。

しかし、ゆるゆると頭があがってきた。懸垂している!えっ!それはありえない。

彼は、腕の筋肉がない&自閉症で手首や腕の力がないので、自分の身体を持ち上げるだけの力はない。

ふと足下のほうをみると疲れているはずのマッチョの一人が、渡の足をもって持ち上げています。他のマッチョ達は、渡が懸垂をしやすい様に、1.2.3…..とかけ声をかけてくださっている。みんなで協力して渡の懸垂を手伝ってくれている。渡もなんとなく懸垂の意味が解ってきている模様。

どうも、渡は女子のところで懸垂をするのはプライドが許さなかったらしく、私の順番が来た瞬間に、バレないようにこっそりと男子のグループの方へ走り出したみたいだ。そこでみんなと一緒にやろう!と思ったらしい。けど、チビメタボの渡が鉄棒に登れないのは、誰がみても明確。なのでマッチョが抱き上げてくれて、鉄棒のぶら下がり方を指導してくれて、下から何度も回数分、持ち上げてくれている。みんな声も出ないくらい疲れているはずなのに、周りは皆でかけ声をかけて応援して、団結して助けてくれている。優しい。

感動。

思わずその優しさに涙ぐむ私。

前回のクラスは、しんどくて泣きそうになったけど、今回は感動で涙ぐみました。

渡も鉄棒から降りるとほっとした様子で、けど、すっごく軽くなめたように、(←自閉なので、言葉に感情がこもりにくい)

"Thank you."

と言っています。ささえてくれたマッチョはちょっと顔を赤らめて、はにかんだだけ。かっこ良すぎる。

泣かせてくれるマッチョ達。ありがとう!!!