自閉症 渡の宝箱

自閉症の渡が、日々起こす騒動や療育についてとシリコンバレーでの起業、生活を綴っています。

年末になると思い出すこと

年末になると、大阪に帰省したときのことを思い出す。渡も香穂もまだ小学生の頃のこと。

大阪のミナミには黒門市場という大きな商店街があって、大阪の胃袋といわれているのだけど、そこに渡が小学生の頃に年末につれていったことがあった。渡が立ち止まったのが、ふぐのおろし専門のお店。壁いっぱいに水槽があって、アルミのすべり台が水槽近くにあり、上のほうの水槽をおよいでいるふぐをあみですくって、滑り台の上にのせると、ふぐがすべり台をすべって、すべりだいの下で待っている、捌き職人が、大きな大きな木槌で滑り降りてきたフグの頭を重いっきり叩いて気絶させ、気絶している間に隣の職人が手際良く捌いて、てっさ(フグの刺身)のお皿をつくりだします。まぁ、パフォーマンスだよね。

この店には、毎年すごい人が買いにきていて、みんなそのフグをさばく風景をみながら自分のてっさができあがるのを待つのだけど、渡は遠くから、じーっと見ていた。それに気がついた店の人が、おばちゃんたちに

「あんたら、ちょっと場所開けたって!!!僕が見たいさかいに。 僕、こっちおいで!!おねえちゃん(おばちゃんたち)は、食べたら、気ィ済むやろ。僕はママの買い物につきあって、えらいねんからなぁ。一番見えるところで見ぃ」って手招きしてくれて、みんなに場所あけさせて、一番よく捌いているところを見れる場所に立たせてくれた。お店の人も渡がなんか、障害がある子だな。と気がついたんだと思う。

渡は自閉症だから、言われたことをしっかり守り、呼ばれたら、そちらに行く。それで、本当の特等席で、自分の目のまん前で、ふぐが叩かれて、どんどん捌かれていくのを見た。私は

「大阪のおっちゃんは、なんだかんだあるけど、やっぱ優しいわぁ。情があるわぁ。よかったなぁ」と思い、渡の顔をみたら、引きつっていた。えっ?って思ったら、なんか言っていて、いつも何も言わないのに、なにか言ってるから、驚いて聞いたら、小さい声で、
"Fish Auchi, Fish Auchi!!"(お魚、痛い! お魚痛い!!)
だった。渡がじっとみていた理由は、撲殺されるフグを救助したかっただけだったのだ。買い物終わって、実家に帰ってきてからも、家でまっていたうちの父に
"Fish Auchi!!"って必死で報告するけど、うちの父はなにがなんだか、意味がわからないから、
「渡。なんか、困ってるんかぁ?」って私に聞いきた。我が父。すごい!そうだよ、渡は困ってるんだよ。渡は、私の父に必死で、黒門の市場のフグの救助を頼んでいた....。

それ、いくら孫がかわいいおじいちゃんでも無理。