香穂が"Proof"と言う劇をするので、見に来てほしいということで、LAまで行って来ました。千秋楽の日です。
ストーリーは、数学の博士だった人が歳をとって気が狂ってしまい、その看護のためにキャサリンという次女が大学をやめ、つきっきりで看護します。25歳の時にお父さんは亡くなってしまうのですが、完全看護をしていた彼女は抜け殻状態になってしまいます。キャサリンのお姉さんは、妹もお父さんの血を引き、精神的におかしくなってると信じています。こんな彼女の家から素数のすごい証明がみつかってしまい、キャサリンは、それは私が解いたと言い張るというストーリーです。詳しいあらすじはこちらにあげている方がいます。
香穂が通うPepperdine大学は、LAX(ロサンジェルス国際空港)から車で40分ほど。(すいていれば、30分)日帰りで行ってきました。
実はこの劇。マイケルオニールというハリウッドの俳優が出演しました。
昨年秋から彼女はこの劇に付きっきり。秋はハロードーリーという劇も彼女がアシスタントマネージャーをしていたので、超多忙でした。
この俳優さんは映画では古いところでは、Ghost Story、最近ではトランスフォーマー、クレージー、グリーンゾーンなどに出ています。テレビでは、ER,24,The X-Filesなどに出演です。
こんな方です。警官役でも出てきますね。これが香穂がやった劇のパンフレット。
香穂は舞台芸術(Technical Theater)という学科で学んでいます。
私は、舞台芸術って大道具さん、小道具さんというイメージがあったのですが、いえいえとんでもないです。それ以外にも4年間で照明から、歴史から、舞台の設定、デザイン、コスチューム、ディレクターもやります。このディレクターがまた大変な担当です。映画でいうところの監督さんですね。この人は、他には、舞台装置から俳優から、舞台芸術の学生すべてのスケジュール把握、指示等をやります。オーディションもやるそうです。アメリカは公平で、オーディションで配役を決めます。俳優学科でなくても、オーディションにうかれば、劇に出れる訳ですね。
これら、すべてを学びます。とってもハードな学科です。バイトもできないですし、ダブルメジャーも禁止されています。(朝8時から真夜中までの拘束がある日々が多いため)
香穂は今回の劇はステージマネージャーとして名前が載っておりました。
私が香穂に劇の前に
「香穂の名前がスタッフの上から二番目にあるね。よかったね。一番上のディレクターは4年生?」
と話したら、
「一番上は、今回プロが指導に入ったので、ディレクターの名前があるけど、要するにマイケルオニールの補佐もする感じだから、とりあえず私が責任者になるんだ。彼も有名な人だよ。劇やってる子はみんな知ってる。ハリウッドでも有名だと思うよ。今日が千秋楽だから、今日で終わりなんだよ。マイケルオニールは、すごく私たちを認めてくれるし、ちゃんと各自をみとめてくれるので、やりやすい。プロの人もすごくいい人だよ。」
と言います。えっ?あんた、まだ2年生じゃん。それでディレクターなんてやってるの?とびっくり!
9月に発表があり、11月のキックオフの後、
「私、今度のステージマネージャーをするので、マイケルオニールと連絡とってるんだ。」
とたしかに、電話で言っていました。私が
「えっー英語なの?」
って聞いたら
「あのさー。マイケルオニールが日本語でメール打ってきたら怖いでしょう。」
と冷静な返事。盛り上がってるのは母の私のみ。香穂が
「よかったよー。」というので、
「そりゃそうでしょう!」というと
「彼はiPhoneユーザーなんだよ。私と同じだからメールの文字がずれたり化けたりしなくて、いいよ」
と言っていました。なんだ、それか、、、。
さて舞台です。香穂達の学部は、大ホール、中ホール、小ホールと大学内に3つのホールを持ち、卒業後はどんなサイズの舞台でもできるように学びます。今回は中ホールが使われました。
劇自体は、全般的に言い合いのシーンが多い劇で、ストーリも重く、最後の結末も見る人によって、取り方が違います。マイケルオニールはお父さん役で、天才と狂気の狭間で揺れる人間を演じます。キャサリン役の子も同じ狂気と正気の狭間を演じます。
最後はスタンディングオベイでした。
私もスタンディングオベイに参加しながら、涙してしまいました。劇がすばらしかったことも当然ですが、さらにうれしかったことは、香穂は、我が家で育ちました。ということは、2歳から17歳で大学に入るまで、15年以上我が家で私と一緒に自閉症の症状と戦い抜きました。彼女は脱走に脱走を重ねる弟を見るために、ついぞ我が家で自分の部屋で机に向かって勉強をしたことはありません。いつもリビングで渡が遊んでいるのを見張りながらの勉強でした。宿題も何度破られたことでしょう。教科書もノートも何度、落書きされたことでしょう。ちゃんと勉強ができる環境をあたえられない母である私は、とても申し訳なく思っておりました。
香穂も私を自閉症の戦友としての方が親しみがあるせいか、私をママとは呼ばず、「ゆみちゃん」と呼びます。この関係は、親子の関係よりも時には強い絆を結ぶような関係です。香穂自身も私に母親業がプレッシャーにならないようにと思ったのかもしれません。たぶん、他の人からみるととってもかわった変な呼び方をする親子なのでしょう。けど私たちの間ではこんな事情と絆があるのです。
そんな香穂がこんな大きな劇の舞台を担当するなんて。本当にあの環境の中、よくがんばって進学したと思います。大学に入ってからも、学部生は、みんなが家族が舞台が大好きで、小さいときからに舞台をみて、日常で接して学んでいるというのに、香穂だけが舞台芸術を学んだのは高校4年生(アメリカの高校の多くは4年制です)からという有様でした。我が家は、渡を預けて気軽に舞台を見に行けなかったのもあります。
そんな彼女がくじけることなく、ここまで学んでいることは私にとってはとてもうれしいことです。
劇が終わってからも香穂といろいろ話ができました。
今日は楽日ですので、香穂は責任者として出演者全員に責任者から小さなプレゼントを渡さねばならなったそうです。記念の品ですね。2年生の彼女はそんなことを知らなかったので、10日前に突然アマゾンでノートを買ってくれ、大学に送ってくれと言われたので、それを送りました。
ここに主演の俳優さん達には絵をかいて、みんなにはカードに各自の絵を書いて配ったそう。みんながすごく喜んでくれたそうですが、マイケルオニールの香穂へのお礼がすごかったのです。
香穂たち舞台裏のみんなは、ヘッドフォンをして働きます。そこにはマイクがついています。劇の開始前からそれをし、みんなに香穂が指導をだしたり、みんなからの状況を聞いて連絡しながら全体を把握します。舞台芸術の全員がヘットフォンをしてる訳なので、なんとマイケルオニールは劇が始まる前に、そのヘッドフォンを一人の子からとりあげて
「香穂、聞こえるか。」
と話しかけてきたそうです。これは舞台芸術のみんなに聞こえています。そこから1分半、彼が
「香穂、僕は君と今回の劇ができたこと、とてもうれしく思う。本当によかった。あのノートもありがとう。とてもよくかけている。大事にするよ。僕は君ともう一度一緒に劇をしたいので、ぜひがんばって欲しい。ハリウッドで必ず会おう。」
というようなことを言われたそうだ。
マイケルオニール、かっこよすぎ。みんなこれを聞いていて、感動だったそうです。香穂は冷静で、
「すごく感動したけど、私、ハリウッドの舞台芸術の道には進まないしな。それってスカウトですか?って聞いちゃいけないしな。と思ってた。」
と笑ってごまかしてました。
なんとこの劇、カンザス?(なんと欲がない香穂はあまり興味がないらしく詳しく知らない)で行われる全米大学の劇の大会にノミネートされているそうです。スポンサーは、US department Education.アメリカの文部科学省とでもいいましょうか。そのジャッジ(審判員)が私たちと一緒に劇をみていたそう。
私は
「えっーそれ、大変じゃん。今日緊張じゃない!」
と一人焦っておりました。香穂が
「大丈夫だよ。私たちの舞台芸術の方のジャッジは2日前に来たので、もう終わり。今日は、俳優のジャッジだけだから。」
えっ...舞台芸術も審査があるの?それも怖いじゃない!
知らない世界の話で、私はなんだか、ドキドキでした。最後を迎えて、無事に劇は終了したそうです。
よかったね。香穂。これからもがんばって学生生活を謳歌してね。