自閉症 渡の宝箱

自閉症の渡が、日々起こす騒動や療育についてとシリコンバレーでの起業、生活を綴っています。

娘の”兵どもが夢の跡”

香穂の舞台を見にMalibuまで行ってきました。

マリブは、ロサンジェルス空港から北西に車で40分。サンタモニカから車で20分です。ちなみにこのマリブは西海岸一不動産が高くないか?と思うようなところで、3寝室ある家で、月に800万円くらいのレント代金という家がざら。どうも俳優達が借りたり、お金持ちの旅行地だったりするようです。俳優達もここに住んでいる事が多く、彼女の大学の近くのショッピングセンターのこの場所では、

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映画の撮影や、俳優達のインタビューがよくあって、だいたいここにくれば誰か有名人に会うよ。との事でした。

さて舞台ですが、今回の舞台は、Bus Stop.

1950年代のカンザス地方の物語で、昔マリリンモンローが映画でやった事があるものです。

香穂はこの舞台の為に元旦から舞台入り。数日音沙汰がないので、連絡したら、死んでいるという返事が帰って来た写真です。というのは、2人組で舞台を作るはずが一人の子が高熱でダウン。香穂も風邪を引きながら舞台をつくっていたそう。その途中経過がこれ。

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すごいものを一人で作るんだなーと思っていたら、

ほぼできたというので、送られたのがこれ。

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ピンぼけですが。これも。

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見にくいですが、全体像はこれです。

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当日の幕開けの前のくらい感じはこれです。

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床は遠近法で塗られてるようだ。

こんなの作っちゃうんだー。床もペイント、全てペイント。


裏話をいろいろ聞くと、舞台が全てできた時に教授陣に最終チェックで見せるのですが、設定の教授が、ばんばん変更を言って来たそうです。もちろん作る前におどろくほど緻密に話して製図をひいてるにも関わらずです。それらの変更にほぼ4日間徹夜になり、1日2時間しか眠れず、ふらふらになったそう。究極は、あと3日で開始と言うLoad in(ロードイン:舞台を全て入れる)が終了し、ほぼ出来上がりの時に、設定の教授が

「えっー大きいなぁ。この壁さ、全部60cm上を切ってくれない?」

と言いだしたそう。切れないってば。それしたら、舞台できないって。4日間で8時間も寝ていない娘はなんだか、もう訳がわからなくなり、笑いが込み上げてきたそう。会話が成立しなくなり、総監督の教授のもとへ。

総監督の教授がにっこり笑って、切ってほしいと駄々っ子のように言っている教授に、

「これ切るとポスターなども全て配置が決まっていますから全部狂いますよ。小物の全てをこの高さにあわせてありますからね。」

で納得したそう。私が見た限り、切ったらへんだったよ。娘曰く、

初日が近くなると教授がパニックになる時があるんだよね。

とのこと。へー。

舞台は最近、売れ始めてる兆しのある生徒もでていて迫力満点。みんなこれが大学生なの?というくらいうまい。チケットもあっという間に売り切れたというのがよくわかります。連日、フルハウス(満席)。

バスストップのあらすじは、

昔はバス停には、バスが来るまで寒い場所でまてないのでバスを待つためのカフェのようなものがあったそうで、そのカフェに出入りする人たちのバスを待つ間の物語。ウィリアム・インジ原作のもので、マリリンモンローがやったものとはちょっと内容が違います。

8人の人生が描かれています。21歳で牧場をもち恋愛をした事がない男の子ボウは、娼婦を真剣に愛してしまう。ボウの兄貴分のバージルは、反対するが、ボウはごり押しで彼女に迫って行く。

他にもそのカフェにくる教授はアルコール中毒になりかかっているような人だが純粋なカフェのウエイトレスの女性がすごく気に入る。舞台のカフェのママは旦那に逃げられたまま、旦那は行方知れず。旦那を待ちながらも一人のバスドライバーがとても気になるという各恋愛の物語。

です。

一番難しいのはボウの兄貴分の役どころ。真面目だけど、かっこよくさらに落ち着きを求められます。なんにもパフォーマスはないのに、かっこ良く見せる。男の悲哀も感じさせないといけない役どころです。

これが結構うまかった。

ボウの役の子も「やんちゃだけど純粋。」をしっかり演じます。

香穂も俳優の子達とは仲良しで、舞台つくりながらも応援するっていう感じですね。けど、学芸会のように甘くなく、彼等はこれで食べて行く訳で、厳しい、厳しい。オーディションがあり、配役が決まり、そこでも一種の戦いがあります。選ばれたから安泰というのではなく、ほとんどの生徒が練習中にMeltdown(メルトダウン:精神的に打ちのめされて、めためたになる)してしまうそうで、立上がるのも困難なほどになるそうです。そこから役作りを真剣にするので、もう目の動かし方一つから演技がすごいです。

舞台作りも半端なく厳しい意見が入るらしく、小道具一つにまで正しい歴史を求められるそう。色や使いこなした感じや時代背景など緻密に計算して作っていくそう。

舞台のカフェにはってあるポスターなどは、香穂が歴史と合うように、教授に聞きながら、インターネットなどから調べ上げて、作ったりして張ったそうです。これがまた芸が細かい。

見えないだろうよ。というところまでポスターができています。

私達が見にいったのは千秋楽。なので、この大学に多額の寄付をするお金持ちのおじいさま、おばあさまもたくさん見に来ていました。

幕間。あり得ない事が。おじいさま、おばあさまは、1950年代が懐かしかったのか、舞台にあがってポスターや写真の一つ一つをみてまわっておりました。まるで博物館の展示をみるように。香穂は相当びっくりしたようだけど、小さいところにまで気配りしたお陰で、舞台背景やメニューの値段、その街で行われる架空の公演のポスター(ホールである音楽会)や額に入れた写真まで考えて作成したので、苦情もなく、みんなが見ながら

「あぁぁ、すごい..。そうだったわー。これはすごいわ。」

などなどと、昔を思い出しながら、ため息をついて見てくれたので、親の私までほっとしました。

こちらにまで緊張が伝わるよ。あぁ、これを見ただけでもドキドキした。


この千秋楽は大歓声の中、終了。大成功でよかったと思いました。パンフレットに香穂の名前が上から2番目に入り...。

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これが卒業プロジェクトのひとつだそう。すごいな。こんな勉強もあるんだ。

次回は、香穂の大学最後の舞台で総監督だそうです。

エジンバラ国際フェスのフリンジで世界代8位になり、賞を取った劇をアメリカ向けに再演するそうです。イギリス側から正式依頼があり、5月からツアーが決まっています。(娘は卒業してるので、行きませんが)

こういう舞台は感動するんだけど、見てる親のほうも緊張してしまうので見終わったら、どっと疲れが。

本当に演じる彼や彼女達、支える娘たちの舞台芸術学部の学生達は、この舞台と戦い、涙し、愛して、何度こけても立上がってやり抜くんでしょう。厳しい世界で、4年の間で7割の生徒がいなくなった舞台芸術学科。なんとまぁ大変な学部なんでしょう。入るのも大変、入ってからはさらに大変です。

楽日の最後の公演は、夜10時前に終わりました。すぐに舞台撤去があったそうです。私達はホテルにもどったのだけど、しーーんとしたホテルの部屋で、まだ耳に拍手の音が残る私。渡と、ぼそぼそと

「よかったね。感動だったね。」

と話してても、なんだかその声が寂しく、けど心地よく響く感じです。そこにピンという音とともに、香穂からのメールが。件名は、

なくなった....。

だった。そのメールで送られた写真はこれ。

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あの綺麗だった舞台のものがほとんどなくなりました。これは本当に学生の子達の

兵どもが夢の跡

だなぁ...。と思ってしまった...。みんな、いい舞台をありがとう!本当に楽しかったです。見に行けてよかった。