渡と香穂は、1週間に3回から5回、プールに行っています。お姉ちゃんが連れて行ってくれて、毎晩1km泳いで帰ってきます。プールにいくと、すごく精神も安定してきて、帰ってきてからは静かにしているので、香穂も私も大喜びです。プールでも香穂が弟を連れて泳いでいるのが、よくわかるので、いろいろな大人の人から、
「弟なの?」とか聞かれるので、
「そうなんです。自閉症なんですけど、プールが好きで泳ぐとすごく安定するので、連れてきてるんです。私もいい運動になるし。」と説明すると皆さん、
「いいわねー。お姉ちゃんに連れてきてもらって。」とか、言われるので、渡も鼻高々。母とくるのは、ちょっと嫌らしい。ティンーエージャーみたいだ。お姉ちゃんと来る方がかっこいいと思っている渡。
兄弟2人で1レーンを使うのですが、泳ぐ人が増えて来たら、3-5人で1レーンを循環しながら使います。使う前には、新しく入ってきた人が先に泳いでる人に「一緒に泳いでいいかしら?」と声をかけてきます。渡の自閉症に気がつかない人はこのことを渡に聞いてきます。
自分があと何回往復すれば1kmに達するかを必死で数えながら泳いでいる時に、全く知らない人に声をかけられる。
ということが、コミュニケーションが苦手な渡には、驚きでしかない感じ。嬉しいのだけど、どう答えたらいいかと思案しているうちに、必死で数えてる数を忘れてしまって、どうも困っている模様。なので母は、こんなカードをつくりました。
これだと話しかけられても緊張しないでいいので、すごく重宝しておりました。パーティ会場などにテーブルにおいてある番号札に穴を開けただけです。
ところが今日は、
5歳くらいの男の子がお父さんが一緒に泳がずに一人で入ってきたそう。お父さんはロビーで本を読み、窓からプールを覗いていたそうです。寒かった今日、プールはその5歳児と香穂と渡の3人の貸し切りで、レーンはたくさん空いています。ところがその子もさすがに一人ぼっちで泳ぐのが寂しかったのか、渡たちのところに立ち寄り、渡のカードを見て、取りあげてでかい声で、
なんでこんなもの使ってるの?何これ?なんで減っていってるの?変なの!
と言ってきた。叫んだ子供の声はプールに響き、いま番号を示していたところは閉じられ、渡は軽いパニックに。渡はひたすら
"No.No."
というだけでだったそう。ちょうど反対側にいた香穂がダッシュで泳いで、5歳児に、話しかけたらしい。
どうしたの?
聞くと、
この人、なんでこれ使ってるの?変なの?なんで番号が減るの?
と聞くので、香穂は、
これを使うと自分が何回泳いだか解りやすいでしょう?減らしていくと、あとどれだけ泳いだら終わりっていうのがわかって、ゴールがわかりやすいでしょう?宿題がたくさん出た時にあと少しってわかると嬉しいでしょう?
と言ったら
ふーーん。ねぇ、このおにいちゃんね。さっきからNoしかいわないけど、バカなの?
という質問には、
バカじゃないよ。言葉を外に出す時にうまく出ないんだよ。言われてることがわかってもね。君もね、悲しくて泣いてる時に思ったように話せないでしょう?あれに近いかな。
と言われて、5歳児。あわてて、渡が悲しんでいるんだということがわかりカードを渡に返した。ここでライフガードの人、登場。5歳児があまりに大きな声でバカなの?と聞いたので、あわてて飛んできた模様。
別のレーンで泳ぐように指示され、さらにお父さんについて泳ぐようにと指導していた模様。
帰ってきてこの話をきいた私は、
香穂、その男の子にキレなかったの?
と聞いたら爆笑して、
5歳児にキレたら、それこそ私がバカじゃん。子供が解らない、なんで?と思うことに、大人が自分で解る範囲で説明してあげるのが大人のすべきことじゃないの?怒る意味がわからない。
という香穂。そーいえば、小さい頃は渡の障がいを指摘されたことがあって、泣いたことがある。そうだ、香穂も大人なんだねーと思った今日でした。
けど、5歳児にカード取られて、慌てる渡もちょっとヘタレやな。ということで笑った夜でした。