自閉症 渡の宝箱

自閉症の渡が、日々起こす騒動や療育についてとシリコンバレーでの起業、生活を綴っています。

理系の開発リーダーが語るコンピューターと人間の社会性について

コミュニケーション支援アプリVoice4uのスイッチ機能の開発でてんてこ舞いの開発リーダーが渡にちょっと簡単だけど精密な仕事をくれた。リーダーを師とあおぐ渡は、真面目にコツコツとその仕事を終了。リーダーが、

渡君、ありがとう。すごく助かったよ。じゃ、久しぶりに渡君の好きなレストランでご飯でも食べにいきますか?

渡は母親の私に似て、ビールを作っているレストランが好き。綺麗なお姉ちゃんが多いというのもあるのでしょう。渡は大喜びなので、そこに行く事になりました。ところが週末のお店は激混み。それでもなんとか座席を確保した。寒かったので、すぐに渡はお手洗いへと向かいました。渡はどんどんお手洗いに向かうのだけど激混みの店では、女の人の背中に当たってしまった。ある程度の勢いで当たったのだけど、トイレ、トイレと思っているためか、自閉症の為か、何も言わずにトイレに向かった。

「えっー、ありえない!」

座席に帰って来た渡に早速、注意する私。

混んでるところを通る時は”Excuse me.”(ちょっと失礼!)と言いながら通りなさい。さっき、渡は女の子にぶつかったでしょう?あんな事して、何も言わないでトイレに行くってすっごく失礼!

と怒って言うと、自分の失敗に気がついた。間違いに気がついたらすぐにやり直さないと気が済まない自閉症。また再びお手洗いにさっーと行ってしまい、ぶつかった女の子の背後でぴたっと止まって、

“Excuse me. Excuse me. Excuse me... “

とぶつかった女の人が返事をするまで、振り向くまで言い続けてる。

さすがに気がついた女の人は、なんと座席を立って渡に返事をした。

「あっちゃー。」

と思う私。こりゃ、大変だ。彼女が立たなくても渡は彼女の後ろは余裕で通れる。なんかナンパしてるみたいじゃん。

私はもう新幹線をも追い抜けるのでは?というくらい焦って早く走って行って、女の人に

ごめんなさい。彼、知的障害あって...。

と言うと、にっこり笑ってくれて、すぐに座席についてくれた。ほっ。冷や汗もんだなぁ。

私が座席に戻って開発リーダーに

ったく!!!あんな後ろにぼーっと立って、なんども「すみません。すみません」って言ったら、誰だって怖いよ。困るよ!!こういうところ、融通が効かないんだから。自分は何度も同じ事聞かれたら怒るくせに。ほんと、もう、どうしてなんだろう!!

プンプンと怒る私に開発リーダーは、一言

ゆみさん、一番堅牢なコンピューターって、どんな物か知っていますか?

と言われた。えっー!!コンピューターの話かよぉ。開発リーダーは、超難関の大学のRocket Science(航空宇宙工学)博士と機械工学博士を持っている。すごく難しいのである。英語では、

“It’s not rocket science.”(航空宇宙工学よりは簡単だから大丈夫だよ。できるよ。)

と言い回しがあり、難しい事に直面した時に、励ましに使う言葉くらい難しい学科です。特に彼は研究過程では、NASAと一緒にプロジェクトをしていたくらいです。そんな彼が「堅牢なコンピューターの話。」なんて始めたら、もう何語話してるのか解らなくなってしまう。困ったなぁ、ここで話をやめてもらわないとついてけないなぁ...と思う私。

リーダー、いいよ。そんな気を使って、話題を変えなくても。渡はさ、また席に戻って来たら怒んなきゃ。あれじゃストーカーまがいじゃん。なんでああやって社会性がないんだろう!!

と嘆くと冷静なリーダーは落ち着いた声で

僕は、話は変えていません。堅牢なコンピュータっていうのを知ってますか?と聞いたんです。堅牢なコンピューターっていうのは、ケーブルがつながっていないコンピューターです。ゆみさんがよく言っている「ネット回線」ですね。そこにつながっていないコンピューターが一番堅牢なんですよ。

なんの話だか...。けど、リーダーは話を続けます。

ネットにつながっていないコンピューターは、ウィルスに侵入されることもありません。そうですよね。ケーブルを引っこ抜いてネットにつながないでおけば、一番堅牢なコンピュータ―になるわけです。けどね、どうでしょう?ネットにつながってないコンピューターって確かに強いですが、ゆみさん、魅力感じますか?たぶん、それじゃ使えないって言って、ネットにつないで、ウィルスに感染しても修正してまた使うでしょう。そうやって少しづつコンピューターを強くしていくんです。そのようにして、自分が過ごしやすい生活を手に入れていくんですよ。

目から鱗の私。ようするに開発リーダーが言いたい事は

渡は社会性に問題があるから、迷惑かけるからといって社会とのつながりを切ってしまってはいけない。どんどんつないで、おかしいところは修正していって、どんどん社会性の強い渡にしていけばいいっていうことか!!!

すげー。

感動しているところに渡が帰って来て席に座っている。開発リーダーは私のように感情的にならずに渡に諭している。

渡君。”Excuse me.”は一度だけだ。最初の一度使って、相手の返事は待たなくていい。返事がある時とない時がある言葉だからね。

と理路整然と説明してくれています。今度はパニックになっていない渡。そこへウエイトレスがやってきた。

こんにちは。まず、飲み物、何にします?

感動している私は、あぁ。注文しなきゃと思って、

大ジョッキで生の地ビール

渡は

”Excuse me, Can I have Mountain dew?"(すみません。マウンテンデュー下さい。)

すごー!ちゃんと1回だけ言って、相手の返事を待たずに、すぐに自分の飲みたいマウンテンデューを注文してるよ。

リーダーは今までとちょっと変わって、背中を丸めて小さくなり遠慮がちに、

あのぉ...僕、アイスティーで.....。

相変わらずアルコールに弱い開発リーダーです。しんしんと冷え込んでいく夜でしたが、なんだか、心は暖かくなった日でした。