自閉症 渡の宝箱

自閉症の渡が、日々起こす騒動や療育についてとシリコンバレーでの起業、生活を綴っています。

渡の悪事~動物園編 Part2~

渡が6歳のころの話です。

暖かくなってきたある日、サンフランシスコの動物園へ渡と香穂を連れて、お出かけしました。姉の香穂の目的は、自分が学校のレポートで書いたレパード(ひょう)をみること。渡は?というと、もちろん動物が触れるエリアいるヤギです。渡の悪事に備え、両手が空くようにと思い、彼がいつも学校で使っているリュックサックを拝借した私は、それを背負い、いざ歩く準備です。ところが、渡は、そのリュックはボクのだ!と言わんばかりの勢いで、私の背負っていたリュックを取り上げ、最後までこのリュックを背負って歩きました。家族分のジャンバーが入っていたので、結構重たかったのです。その上、責任はもっと重たかったのです。というのは、なんとそこには、お財布まで入っていたので、いつもよりやたら念入りに渡を監視する羽目になった私でした。

 ここに来るのは、1年ぶり。けど自閉症児にたまに見られることですが、好きなことは何があっても忘れない彼は、触れる動物のエリアが園内のどこにあるのか覚えています。彼には園内マップは不要です。私の虎の子を背負った彼は、ダッシュをかけて走っていきます。私は、彼をおいかけ(もとい、虎の子をおいかけ)必死でついてゆきました。

 触れる動物園につくと、彼はさっそく何の動物がいるかチェックしていました。サンフランシスコ動物園は広いので、ヤギ、羊、ロバ、ラバetc…の動物が居るは、居るわでした。彼は目的だったヤギにえさをあげたいので、”Please!”と、

餌を買ってくれと催促します。買ってあげると、ヤギに一生懸命、あげていました。

 すると突然横で「ガツッ!ガツッ!」というものすごい音がしたのです。驚いて、なんだろう?と思い、そちらを振り向くと、ヤギと羊が頭をぶつけ合って、喧嘩をしています。どうみても優勢なのは、ガタイのはるかに大きい羊。羊は余裕なので、力半分で相手にすれば十分という感じで、喧嘩を買っています。喧嘩を売ったほうは、どうもヤギ。ヤギは体が小さいので、必死で頭突きしています。自分の体を大きく見せるために、2本足で突っ立ったりして、威嚇し、体を大きく見せては、頭突きに入っています。そのあたりにいた人たちが、「この喧嘩はおもしろいぞ。」と思ったのか、一人、二人、と人が集まってきて、あっという間にたくさんの大人と子供がそのヤギと羊の喧嘩を取り囲んで見ています。私も「あぁ・・・。これは羊が優勢だな」とぼーっとみていると、突然、渡が慌て始めたのです。私の手を持って、

“Stop!Stop!”

と言いながら、ヤギと羊の頭突きの間に入れようとするのです。そうです。彼は、この喧嘩を止めたいのです。自分が通う学校や、プレスクールでの喧嘩は、いつも大人がでてきて止めるのに、今回は、誰も止めないので、相当焦っていたようです。

私が、

「渡、動物は、こうやって喧嘩をするのだから、いいのだよ。」といったら、

「あぁ、誰も止めてくれないのだ。」と判った渡は突然

"NO~!!!!"

と叫んで、その頭突きの間に全身で割ってはいってしまったのです・・・・。羊のほうは余裕で喧嘩をしていたので、すぐに気がつき、頭突きをやめて、去ってゆきましたが、劣勢だった、ヤギは下をむいて頭突きをしていたので、そのままの勢いで、渡に突進してしまったのです。

突然、頭突きをくわされた渡は、唖然・・・。彼の顔には、

「えっ?えっ?どうして・・・。ボクって、君のことを助けたよね・・。どうしてぇ・・。」ともう、すべてが信じられないという顔でふらふらと歩き始めました。私が渡を捕まえて

「渡、喧嘩っていうのはね、止めにはいると必ず一発ほどは、殴られるものだよ。」と説明したのですが、それでも、呆然自失の彼は、

「もうヤギなんて・・。ヤギなんて・・」という表情をしたまま、まったく関係のないアヒルのほうへゆき、手に握り締めていた、ヤギの餌をアヒルにあげようとする始末・・。

私があわてて渡のほうにかけようろうとすると、なんと私よりも困惑げな顔をしてるように見える、さきほど頭突きをしていたヤギが、渡のほうへ歩いて行っているのです。

ヤギのほうも渡が間に入った意味がわかったようで、渡と3mの距離をおいたまま、渡が右へゆくとヤギも右へ・・。左へゆくとヤギも左へ・・。と、ヤギも気をつかってくれています。が、もう傷心の彼は、動物たちに

「バイバイ」といったまま、そこの触れる動物園を後にしました・・・。

一部始終をみて私は、

「そんなに喧嘩が悪いと思うのだったら、アナタ達、姉弟も家でくだらないことで、力いっぱい喧嘩するのをヤメればいいのに・・」と思った一日でした・・。